ある日、不思議な形の入れ歯を入れた方がいらっしゃいました。入れ歯の咬み合わせは決して良いとは言えず、形も歪んでいます。使いやすさを考えれば、作り直すことが最善だと思われました。
ですがお話しを伺っていくと、実はこの方は民謡の歌い手で、大会で優勝するほどの喉をお持ちということがわかりました。つまり、この方にとっては食べやすいことやきちんとした咬み合わせよりも、民謡を唄うときにしっくりくる今の形の入れ歯が最適な入れ歯であり、その入れ歯を長持ちさせることが最良の治療計画だったのです。
この経験から、カウンセリングによって「実は私は」「そういえばあのとき」といった言葉を引き出すことで、はじめて患者さんが自分らしくあるための歯科診療をご提供できると確信したのです。